HとSの本 〜彼と彼女の夢〜

彼の授業

 黒板を走るチョークの音。
 白い粉で汚れていく、同じ白い指。春も過ぎて暖かい、とばかり言っていられない時期に、教師とは大変な職だ。
 白いスーツに白の手袋。肩甲骨辺りに浮かぶ白い翼は涼しげで、能面じみた無表情さで淡々と授業の波を起こす。
 実に乗りづらい。
 さらに言うなら暑苦しい。
『白い箱庭』から派遣された超エリート教師。彼らの授業はひどく単調で、厳格で、ためになるが息が詰まる。
 学業とは果たして、真綿で首を絞めることだっただろうか。
 そんなつまらないことを考えながら、教室の雰囲気に呑まれてノートをとる。
 黒板に書かれていることを単純に丸写し。
 これが普通なのではない。私語も居眠りも余所見もなく、与えた課題を黙ってこなし成果を上げる。これは教師の理想であろうが、それは理想であって現実でない以上、普通ではないのだ。
 異質を嫌う割に異質を押しつける『白い箱庭』の教徒様。

『赤』を異端と謳い
『黒』を諸悪と呪う
『白』を顕現と信じ
『世界』を廻す狂信者

 そう揶揄されるほど、彼らは尊く清らかな存在だった。
 当然、すべての『天使』の憧れの的だ。

 ふと教師がこちらを向いた。
 能面の奥にある瞳が俺を見た。

 だが、すぐに逸らされる。
 それはこっちも同じだ。





『あんなもの』



『誰が見てやるものか』



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