HとSの本 〜彼と彼女の夢〜
 チャイムが一時限目の終わりを告げる。教師はさっさと出ていった。
 クラスの中は復習に余念がない。彼の理想と憧れの存在が行ってくれた授業を、一秒一瞬たりとも無駄にしたくないのだろう。
 自分は、既に教本は机の中だ。
 呆れたもんだ、と背後から声。
 彼の教徒様の授業を無駄にする気か、と敬虔な信徒なら激昂で返す。だが、その人物はただ呆れていた。
 後ろの席に座るクラスメイト。
 三年目の付き合いになる友人は、互いに素性以外は知り尽くしていた。
「隠すならもっとうまくやれ。そんなんじゃクラスで孤立する」
「この程度でハブにされるならむしろ望むところだ」
 言ってから失言だと思う。


 望まなくても、
  独りにされてしまった
   そんな少女もいるのに



「しかし次は体育だな。机の上で本の虫になるより、そちらの方が倍は為になる」
 こちらの空気を読んだのか、彼は話題を変えた。
 二人揃って教本をしまい、体育教師兼任の生徒指導部担当の鬼が待つグラウンドに向かう。
 次の授業は自分達以外は遅刻確定だ。いつものことではあるが、急遽割り込んで入るあの授業は次の教科に多大な迷惑を掛ける。
 一クラス丸々、授業の復習で30分遅刻するのが当たり前だ。

 そうでないのは、
  自分達みたいな変わり種。

 そんなことをしない輩だけ。
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