夏恵

僕が半年振りに実家に戻ると父も母も留守だった。

僕は持っていた合鍵を使わずに実家を離れ、真っ直ぐ墓地に向かった。



墓地の駐車場は混みあっていて僕は墓地の駐車場を諦めて近くの公園の脇に車を駐車した。

墓地は少し小高い場所になっていて、石階段の林道を上る間も何人かの家族とすれ違った。

墓地までの林道は夏の日差しを遮り涼しい心地よい風が流れていた。

僕は林道の途中にある井戸水を汲み上げる手動ポンプで木桶に水を汲み、もう一方の手に持った花が落ちない様に持ち直し、墓地の中程に位置する吉岡家の墓に向かった。

林道を抜けるとポッカリと明るい空間が広がる。

普段の日よりも賑わっている墓地は明るく、とても健康的な場所の様に感じる。

均等に間隔を取り整理され立ち並ぶ墓石の間を少し歩くと、家の墓の前で線香を上げる人影が見えた。

近付くとそれは父と母だった。
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