夏恵
僕は会社からの電話を無視して、堤防を越えて浜辺へ下りる。

平日だからだろうか、浜辺に立つパラソルや砂の上に敷かれたシートの数もまばらだ。

夏休みの子供にせがまれたのだろうか、波打ち際ではしゃぐ子供達を疲れた視線で眺める父親がいる。

彼にとってみたら、この場所は『ただ暑いだけ』それだけの場所だろう。

僕は靴の中に砂が出来るだけ入らないように踵を浮かした様に歩く。

靴を履いていても判るくらいに砂はよく焼けている。

波の音と子供のはしゃぐ声だけが耳に入る。

僕は少しネクタイをゆるめ、上着を脱いで手にかける。

時折吹く風にあたる度に心に溜まった淀みを流されている様な感じがする。


僕はこんなにも海がすきだったんだろうか・・・


とても穏やかで、同時に少しだけさみしい様な気持ちが胸の奥に波と共に打ち寄せる。

僕は黙々と歩き続けて、人も居ない岩浜の所まで来ていた。
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