壁ドン王子な上司さま
上司は壁ドン王子さま?
(あ、まただ)
わたし立花小春は入社4年目の春、人事異動で商品企画部に変わった。それから半年、週に2回は見かける光景。

「何年たったら、まともにコピーができるようになるのかな?半年目の立花の方が、よっぽどキチンと仕事してくれてるよね」
「す、すみません」

小さくなって謝っているのは、浅井さん。わたしより2年先輩。
浅井さんを壁際に追い込んでいるのは、商品企画部の水無瀬彰課長、32歳。

その浅井さんと水無瀬課長、その態勢は、いわゆる「壁ドン」ですか?
決して甘い雰囲気じゃなくて、脅されてるようにしか見えないけど。

「おっ、またやってるね、壁ドン王子」
「はぁ・・・」
壁ドン王子か・・・。
1年先輩の如月さんの言葉に、ため息をついてしまった。

商品企画部に来て初めて知った。
水無瀬課長はミスをした女性社員をお説教する時、必ずといっていいほどコピー機そばの壁に追い込み、ドンしちゃう。地を這うような低音ボイスと、凍りつくような鋭い視線で。
ほとんど脅迫だけど、諸先輩方には萌えポイントらしい。
浅井さんや如月さんによると、あの鋭い視線で、ハートまで射抜かれてしまうんだとか。

「それに最近は別バージョンができたしね」
「別バージョンって、何ですか?」
「お説教だけじゃなくて、褒める時にはあの態勢で、頭ポンポンしてくれるの〜」
「ポンポン・・・」
「その時の目がホント甘くて蕩けるわー」
如月さんの顔、本当に蕩けてる。

「やー、参った参った」
解放された浅井さんが戻って来た。
「水無瀬課長のお説教、マジヤバかったわ〜」
「課長は怒った顔も笑った顔もイイからね」
「あの顔が目の前に迫って来たら、もうどうにでもしてって思っちゃう」
ハートが飛んでます、先輩方。
「わたしも昨日、ドンされましたー」
と言ったのは、今年入社の新人ちゃんの下月さん。
「もう半年以上たつんだから、そろそろ仕事を覚えてもいいんじゃないか、って」
・・・、それ、喜ぶところ?
「立花さんも課長の壁ドン、萌えますよね」
「はははは・・・」
曖昧に返すしかない。

だって、されたことないから。
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