薬指の秘密
「病は気からっていう」

医者が何言うんだか

「黒崎先生には黙ってて。寒気がしてきたなんて言ったら強制送還される」

「それの何が問題なのよ」

こんなところで意地張んなくていいものを

「だから柚木ちゃんが…」

と言いつつ収まりそうにない寒気に口を閉じる

「まあ、私からは言わないけどさ、黒崎先生を出し抜くなんて100年早いと思うよ」

「マスクで顔隠れてるもん。いけるいける」

「…。だそうですが、黒崎先生」

しるふに注いでいた視線を外して向かう先は、医局のドア

隣では、驚いたしるふが飛び起きるガタン、という音

「お疲れ様です、黒崎先生。外来ありがとうございます」

何時からいたのかわからないけれど、ドアのところに立つ海斗の姿に違う意味で寒気がした

漆黒の瞳が静かに見つめてきて思わずマスクの位置を確認する

「うっわ」

深いため息をついた後、近寄ってきた海斗に額を思い切り引かれて

後頭部が椅子の背もたれにぶつかる
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