ちくおんき



あれから10年――


私はおじいちゃんの部屋にいた。

私のとなりに、おじいちゃんの姿はない。


あの時のおじいちゃんの真似をしてひょこひょこしながら引き出しからレコードを取り出し、ちくおんきにセットする。

曲はもちろんあの思い出の曲。


音は10年前と同じで、なめらかな旋律のはずなのに、歯が欠けてしまった子供の口みたいに空白ができる。


目を閉じて聴いていた。


「……エリナ、ありがとう。一緒に音楽を聴けて毎日楽しかったよ」



そんなおじいちゃんの声が聞こえたような気がした。





       ―――end―
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