見た目イケメン、中身キモメン
ーー
彼女は、俺が喋れないと思っている。
付き合って半年経つが、彼女の前で一言も言葉を発したことがないのが原因だろう。
彼女との出会いは、俺がスーパーに買い物に行った時のことだ。刺身売り場で、刺身の値段と睨めっこしながら、買おうか買うまいか悩む姿に一目惚れした。
天使だと思った、可愛すぎる。
こんな子が現実世界に存在する訳がない。いやしかして、通りざまに深呼吸すれば刺身(ナマモノ)の匂い混ざって彼女の匂いが感じられる。
つか、匂いからしてヤバい。石鹸の香りだ、彼女で全身洗いたい。
何度も通り過ぎる。その間、俺の存在など見向きもしない、刺身熱中の彼女。隣に立って、彼女の吐いた息を肺に蓄えようとも、彼女は気づかない。
ああ、吐き出したくないこの息。今このときだけ、呼吸しなくてもいい生物になりたい。ああ、いや、彼女の体内にも俺の息を蓄えたい。息を吐き出しておこうーーって、流石にそれはまずいか。吸うだけに留めよう。
匂いと息を十分に堪能したところで、彼女は刺身を買うことを決意したようだった。俺も買う。帰ったら、彼女と同じ物を食べている想像しながら、完食しよう。