サクラと密月
それが、東京で知り合った今の主人だった。
友達と一緒に遊びに行った東京の街で声を掛けてくれた彼。
夜遊びがしたいと言った彼女に付き合って、夜飲みに行った時知り合った。
お酒も入っていたのだと思う。
社会人の彼と彼の友達は、私たちを色んなところに連れて行ってくれた。
いつもと違う世界の中で、ちょっぴりはめを外してしまった私。
彼のリードのまま、流れに乗って初めての夜を迎えてしまったのだった。
圭介と違う優しさに包まれて、私は彼に夢中になった。
名古屋に帰ってきても、彼との夜が忘れられなかった。
圭介のことなんかお構いなしだった。
私は初めて知った大人の恋の感情のまま、大人の彼に思いをぶつける。
大人の彼は、そんな私が愛しくて仕方がないようだった。
しばらく彼のアパートへ入り浸る日々が続いた。
やがてずっと一緒に居たいと思うようになった。
私はためらいもせず、一人で東京に向かった。
彼のアパートの前でずっと待っていた。
残業で遅くなった彼が、私を自分の部屋の前で見つけた時の顔が今も忘れられない。
すごく驚いていたっけ。
そして何も言わず抱きしめてくれた。
あれが本当の恋だと勘違いしていたんだ。
彼もそこまでした私が愛しいようだった。
大人の彼は私を大人の女性として扱ってくれた。
それがまたとてもうれしくて、愛されていると思っていたのだ。
結婚は恋愛と違う。
大人同士のいわば契約だ。
そのことに大学を出たばかりの私が気づくはずもなかった。
彼のリードのまま、こうして結婚してしまった。
結婚式も、新婚旅行も、イベントとして素直に喜んでいた。
その嵐の中で、私は自分を見失っていた。
行動と思いは同じようで、同じではない。
人の中には様々な気持ちがあって、上っ面だけではないものがある。
恋愛だけで生きていけるほど、世の中甘くはないのだ。