サクラと密月
お昼を一緒に食べた時、共通の知り合いとして圭介の話になった。
私と圭介が付き合っていたことを、彼女は知っていた。
けれど私が結婚していることも知っている。
思いがけない名前に心臓の鼓動が早くなった。
どうしてだろう。
彼女の話の中に出てくる圭介は、私の知っている圭介と少し違っていた。
私の中にいる圭介は学生で、ゲームが大好きな男の子。
彼女の話の中での彼は、とても優秀で上司の評判も良く、女性社員にも人気だということだ。
正直信じられなかった。
いつも一緒に遊んでいた彼。
時々ゲームに夢中になって降りるはずの駅で降りなかったこともある。
待ち合わせの時間に何度遅れたことか。
「とにかく、その先輩が圭介くんにびったりなんだって。」
彼女がそう言って力を込めて話した。
「私の友達が彼と知り合いたいらしんだけど、その人がいるから近づけないらしんだ。」
そんなオフィスラブがあるんだ、なんだか遠い世界を見ているようだった。
そのまま、彼女は同じ会社の先輩の愚痴を話始めた。
私は彼の事を思い出していた。
結婚するって言った時、案外驚かなかった彼。
本当はもう少しショックって顔してほしかったな。
結婚式も知らん顔で出てくれたし、二次会の時なんか女の子紹介させられそうになった。
いつも一緒にいて喧嘩ばかり。
本当はそれがすごく嫌だった。
初めてのデートの時もそうだったっけ。
嬉しくて一生懸命おしゃれしたのに、ちっとも褒めてくれなくて。
私より、もっと興味のあることが沢山あったんだよね。
彼には。
でも私はそれがとても嫌だったんだ。
だから大人の男性がとても素敵に見えた。