サクラと密月



恵介の忘れものを渡した時だ。


大した話ではなかったけど、安心したのを覚えている。


軽い冗談を言って別れた。



本当にただそれだけ。



恵介と私の仲はと言うと、上手くやっている。


でも、電話が繋がらない日や、メールが来ない日もある。


突然デートがなくなる時も増えた。


私はそれ以上詮索しなかった。


仕事と言い張る彼のスマホにロックがかかっていても、デートの途中で意味もなく


居なくなっても彼の言い分を信じた。



それしかなかったから。




仕事と言われれば、止めてとは言えない。



東京から帰ってくると言う彼に、ごめん遅れると何度待ちぼうけをさせられただろう。



簡単に済ませたお昼の後、オフィスに戻った。


今日は大事な仕事は済ませたから、後は出来ることを片付けるだけだ。



 席につくと、目の前で上司と別の部の上司が話していた。



私が来ると、向きを変えて話こむ。


どうも何かあったらしい。


失敗の話だ。


まだ、不慣れな上司は時々仕事を間違える。


また、忘れることもある。



でももうそろそろ慣れてもらわないと。


ところが、どうも自分では責任がとれなくなってきているらしい。


私のせいにする話を作成中だ。


別の所で話せばいいのに。


中途採用の私の様な社員にはよくあることだ。


上に行きたい上司が、部下のせいにする。


レールから外れている私達には関係のない世界。



また嫌な所見ちゃったな。


以前の上司はそんなことはしなかった。


だまって仕事助けてくれたっけ。


前の上司と比べてもどうにもならないこと、よくわかっている。


だから考えるのは止めた。


馬鹿らしいから。


私はただの女性事務員。


それ以上でも以下でもない。時間給を頂く身分なのだ。


時間が終われば、全て終わりだ。

 
 しかも思ったとおり、定時前に彼恵介からメールが来た。


仕事の都合で6時に名古屋に着く新幹線に乗れなかったらしい。



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