サクラと密月



 まだ明るい街に出ると、ようやくスマホを開く。
 

 忙しすぎて確認する時間なんてなかった。
 

 まだ彼女からの返事はなかった。
  

 とりあえず移動しよう。
 

 昨日彼女と会ったCDショップの近くの本屋に行くことにした。


 彼女にそうやってメールを打つ。
 

 歩きながら昨日のことを思いだしていた。
 


 俺が欲しかったCDを作ったバンドの曲が流れるモニターの前で、一人で考えごとをしながら


MVをじっと見つめていた彼女。


 気のせいか泣きそうな顔をしていて、俺は思わず声を掛けた。


 振り向いた時の驚いた顔が今も忘れられない。


 
 いつも幸せそうに笑っている彼女が見せた、もう一つの横顔。
  

 その時気が付いた。
 

 あの笑顔の為に彼女が隠している様々な感情があることを。


自分のことより、人のことを考えてしまう人なのかもしれない。
 
 
 いや本当はずっと前から気になっていた。
 
 
 初めて出逢ったあの日から。

  
 
初めて逢った時、惹かれた彼女の笑顔。


いつもの彼女の笑顔が見たくて海へ誘った。
 

 このまま返したくないと思った。


 誘ってよかったと思っている。

 

 なんて本当は彼女といると楽しくて、一緒にいたいだけだった。


  
 電車を降りて、駅を出る。


 栄の街を歩きながら少しドキドキしてきた。
 

 今日も仕事帰りの人や、学校帰りの学生。これから遊ぼうとしている人達が行き交う。


 そんな人達を見ていると不思議な気持ちになってきた。


 こんなに人が沢山いるのに、でも会いたいのは彼女ただ一人。
 

 しかも彼女と会うと思うと、こんなにもワクワクしてくるのはなぜなんだろう。

 
 何人もの女性と知り合ったり、付き合ったりしてきたのに、こんな思いになったのは


 初めてだった。


何より彼女が、今同じ地球の上に、同じ時代に生きていてくれるのがこんなに嬉しいなんて


知らなかった。


なんて少し大袈裟かな。


でも本当にそう思っている。




             
< 87 / 147 >

この作品をシェア

pagetop