サクラと密月



車に乗り込むと、昨日行った公園に出かけた。


辺りはずいぶんと暗くなったが、子供の頃暗くなってもボールを蹴っていたことを思うと


平気だった。


「ずいぶん暗くなってきたけど大丈夫ですか。」


彼女が心配そうに聞いてきた。


「大丈夫ですよ、ここ街灯があるから。皆遅くまで蹴ってるんです。」


そう言って、彼女の前を歩き出す。


彼女も歩き出した。



昨日二人で並んでお菓子を食べた公園から少し行くと、サッカー場がある。


二人で誰もいないグランドに入りこんだ。


懐かしいグランドの匂い。


この埃っぽい空気。


中学、高校と夜遅くまでボールを追いかけていたあの日。


正直嫌になったことは何度もある。


認められなくて出れなかった試合。


どうしても上手くならないドリブル。


リフティング。


そんな時、仲間が必ずそばにいた。


先輩とぶつかったこともあった。


彼女を小さなスタンドに置いてボールを触っていると、そんなことを思い出した。


彼女は静かに俺を見ていた。


しばらくボールに触っていると、すぐに感覚が戻ってきた。


リフティングも以前のようにとはいかないけれど、それなりに続けて出来るようになった。


思い切ってドリブルを始めた。


そしてゴールまでボールを運んでいき、シュートをしてみた。


「惜しい。」


彼女が声を上げた。


ボールは宙に浮き、大きく右にそれてグランドの端に転がっていった。


俺は走ってボールを取りに行った。


久しぶりに蹴ったので、心臓がバクバクした。


もう一度ゴール前に戻って同じ事を繰り返した。


何度も繰り返すと、砂埃が舞い始めた。


汗が頬を伝いだす。


あの頃とは違い、すごく楽しかった。



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