あなたと、恋がしたい 【特別番外編】
「一年前、久住さんの結婚式に間に合わなかったぐらいし、超多忙なデザイナーさんだから無理ないかぁ。非常識に出席の欄に〇をつけて出したのまずかったかな。ぜったいに来なさいよってメッセージだったんだけど」

 悔しそうに結衣が言う。昂生に会えなかったのは残念だけれど、彼女の気持ちだけで果歩は十分嬉しかった。

「私のために……ありがとね、ハマちゃん」
「あのときも遠距離恋愛だったけど……今回はふっきれた顔してるもんね。大丈夫そうね」
「うん」

 今日は十二月二十日。もう少しで今年も終わる。一年八ヶ月の間に会えたのは数える程度で、時間さえあれば電話やメールをしているけれど、長い時間ずっと一緒にいられることはなかった。

 寝る暇もないぐらい忙しいとぼやいていた彼の邪魔をしにパリに行くのは忍びなくて、もうちょっと先にしようと思っていた。

 二十八歳の誕生日に「おめでとう」という電話をもらったのがこの間の秋のこと。覚えてくれていただけでも奇跡なのに、新しいデザインの服を忘れた頃に送ってくれる。彼の気持ちの表現の仕方は出逢った頃からそうだった。いつもさりげない。

 だからというのもあるし、不思議と自分の気持ちもむやみに不安定になることはなかった。
 結衣が言ってくれたようにふっきれているということなんだと思う。

 幸せの形は色々ある。
 好きな人とずっと一緒にいられる幸せ。
 離れていても好きな人をずっと想っていられる幸せ。

 少し前までの自分なら、一緒にいられる幸せばかりを追い求めて、大切なことを見失いそうになっていただろう。けれど昂生と出逢って、相手がいるからこそ自分があるのだと気づかされたのだ。

 今はどんなに離れていてもお互いを大切に想い合える日々がいとおしいと思っている。


< 3 / 14 >

この作品をシェア

pagetop