シークレットキス
「……眼鏡返してください。それがないと書類も拾えません」
「いいよ、拾わなくて。まだこうしてキスしてたい」
「ダメです。仕事中ですから」
唇が離れた途端、ぴしゃりと強く言う私に、社長はぶーとふてくされながら渋々眼鏡を返した。
それをそっとかければ視界はすっきりと広がり、手早く書類を拾い集めたところでエレベーターは丁度社長室のある13階へと着く。
「降りますよ。早く仕事始めてください」
「ちぇーっ、ハルちゃんは意地悪だなぁー」
「なんとでも言ってください」
だから、拗ねても可愛くないってば。
心のなかで呟いて呆れながら先に降りようとすると、社長は突然後ろから私を抱きしめた。
「……じゃあ続きはまた今夜、ね」
そして低い声で耳元でそう囁き頬に小さくキスをすると、ふっと笑って先に降りて行った。
「……はぁ、」
……あの人は、会社をなんだと思っているのか。
秘書を壁際に追い込み、キスをして、今夜の約束を取り付けるなんて。
そう溜息をつくものの、赤くなる頬が緩むのを堪えきれない自分がいる。
私と彼は、ただの社長と秘書。だけどふたりきりの時間だけは、秘密の恋人同士。
今夜はもっと、甘いキスをしよう。
そんなことを思いながらエレベーターを降りる。唇には彼の、感触を残して。
end.