私、立候補します!

***


 エレナがベッドに腰をおろすと、女性はベッドの近くに置いてあった椅子を寄せて静かに座り口を開いた。

「念のために名前を確認させてもらうけど、あなたはライズ国のエレナ・ノーランドさんで間違いないね?」

「はい、間違いありません」

「御者から聞いたけど一応聞いておかないといけないから」

 御者と聞いてエレナは再び目的を思い出す。
 とにかく彼の無事が知りたくてベッドに座りながらうずうずしていると、女性がくすりと笑ってエレナの望む言葉を話し出す。

「御者の彼なら怪我一つせずにライズ国に帰って行ったから安心してほしい。それよりも私は目が覚めるまでエレナさんのことが心配だったよ」

「私ですか……?」

「そうだよ。私が馬に乗って駆けつけるのが少しでも遅れていたらあなたは亡くなっていたかもしれない」

(そんなに危なかったんだ……)

 厳しい顔つきで告げられた言葉にエレナは気を失う直前の様子を思い出す。
 直接触れられていないのに首は確実に絞められて苦しかった。もうダメだと諦める思いだったことも思い出して体をぶるりと震わせてしまう。

「移動術に妨害術で干渉して違う場所に向かわせるなんてことをされたのは始めてだった。今後は妨害なんてされないように移動術がある全てのエリアに守りの術をかけたから二度とないよ。盗賊達も一人残らず捕らえたから安心して?」

 ふにゃりと笑いかけられてエレナはぼーっとしてしまったが、はっと気がついて勢いよく頭を下げた。
 彼女はエレナと御者を助けてくれた命の恩人。彼女が来なければ少なくともエレナは何も出来ず死んでいたのかもしれないのだから。

「助けていただいてありがとうございます! 私に出来ることならお礼に何でもしますので……!」

「お礼なんていいのに……」

「いえ! それでは私の気がすみませんので!」

 眉を下げた女性に食い下がる。
 助けられたら何かを返す。
 人から受けた厚意には精一杯の気持ちを返すようにとエレナは両親から受け継いでいた。

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