私、立候補します!
14 辺境伯爵領

 一瞬で終わってしまった移動術にエレナが肩を落とそうとも馬車は進む。
 しばらく進むと感じ始めた寒さにエレナは体をふるりと震わせた。
 それに気づいたラディアントは自分が用意して手に持っていた外套を広げ、彼女にふわりとかけてやる。

「私ので悪いけど着ているといいよ。移動してきた場所からもうカルバン氏の領地だから寒いだろう?」

「ありがとうございます。ですが、ラディアント様は……?」

「私は軍人だし軍服だから大丈夫。エレナさんはドレスだから風邪をひかないように、ね?」

「はい……」

 厚みのあるコートは春にはいささか不似合いであるが、寒さを感じたエレナにはぽかぽかとして心地いい。
 男性物のロングコートは小柄な体を脚の方まで包んでくれ、温かさにエレナが顔をほころばす。
 その姿にラディアントも頬がゆるんだが、エレナのドレスを見て胸にもやもやとした物が広がるのを感じた。

(これでドレスが私からの贈り物ならもっとよかったのに……)

 エレナが身にまとっているドレスは以前にチェインからプレゼントされた水色のドレス。
 エレナの目に近い色のそれは可愛らしいデザインで、ラディアントの目から見ても似合っている。
 左手首にはラディアントの色である金と緑のバングルを身につけているが、それは国王からの贈り物で彼自身からプレゼントされた物はなかった。
 自然を装って視線を外し、馬車の窓から景色を見ながら考えにふける。

(彼女はどんな物なら受けとってくれるのだろうか)

 アクセサリーは国王からの、ドレスはチェインからの物で十分、他は自分の手持ちがあるからと言われて強く行動に出られずにいた。
 エレナを喜ばせてあげたいと思うのに、ラディアントにはプレゼントくらいしか思いつかない。

(魔術や剣術などは磨いてきたけれど――……)

 自分の過去を振り返ってため息をこぼしそうになった時、ラディアントは唯一彼女を喜ばせることが出来そうな事柄に気づく。

(そうだ。エレナさんは魔術を恐れずにとても興味を持っている)

 国王の依代式で握った手が離れなかった時に得意な魔術は何かと聞いてきたことを思い出し、口元がゆるんでいくのを自ら感じた。
 彼女が望んでくれるなら様々な魔術を見せることが出来る。

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