遊川さんは今日も最強

チャンスは、その翌日にやってきた。
お子さんが熱を出して休んでいる編集長に代わり、全ての進捗チェックをしているのは遊川さん。

既に定時は過ぎていて、俺達はいつものごとく残業中。
大田はそろそろ終わりそうなのか、溜まっていたというメールへの返事を怒涛の勢いで書きまくっている。

俺はといえば、ようやく出来上がったふわもこスリッパと、苦戦したところや気をつけるところを作成のポイントという題名でまとめたものを遊川さんに提出したところだ。

「……どうですか?」

「アンタへったくそねぇ」

縫い目のチェックをして容赦無い言葉を投げつけた後、「でも原稿はいいわ。苦労したかいがあったわね」なんて褒めてくれる。

なんでそんなテクニシャンなんですか、アンタ。

「いいわ。これでキット部分の原稿まとめましょ」

「俺も手伝います」

「あ、私は帰りますー!」

大田はパソコンの電源を落とし、そそくさと立ち上がる。

「お疲れ、若葉ちゃん」

「はい。すみません。お先に」

頭を下げて出て行く寸前、奴は俺に向かってウィンクをしてみせた。

なんだよ。今がチャンスだって?

確かにそうかもしれないが、遊川さんを押し付ける壁は何処だよ。

社内はこじんまりとした一室で、北側に編集長のデスク、中央に俺たちが使うデスクが並んで島のようになっている。

壁面は窓か書棚。
窓は外から丸見えだしやっぱ書棚の方か?
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