でも、好きなんです。
「昨日、俺の傘、役に立った?」


 翌日出社して、朝いちで会ったのは、広瀬君だった。

 なんとなく、顔を合わせにくくて、なんとなく視線をそらしながら、傘を手渡す。


「ありがとうございました。」

「いえいえ、どういたしまして。」


 嫌みに見えるつくり笑顔で広瀬君が傘を受け取る。
 
 次の瞬間、差し出した手を強く掴まれる。


「!」

「昨日、どうして泣いてたの?」


 急に広瀬君に真剣なまなざしを向けられて、戸惑ってしまう。


「え?」

「あのあと、オフィスから、窪田さんが降りてきたけど、なにか、関係ある?」


広瀬君の口から、窪田さんの名前が出たとたん、なにもかも見透かされているような気がして、私はムキになって否定した。


「く、窪田さんは、なんの関係もないよ。泣いてなんかないし、広瀬君の見間違いだよ。」


 そう言う私をじっと見つめたままの広瀬君。
  
 広瀬君、なんだか、いつもと違う人みたい。


「・・・河本さんって、ほんと、嘘がつけない人だよな。」


 広瀬君が、小さくため息をついたのが聞こえた。


「いや、ごめん。勝手な詮索だよね。

 ほんと、俺、どうかしてるかも。

 昨日から・・・なんか、気になっちゃっててさ、ごめんな。」


 そう言うと、それ以上は何も聞かずに、広瀬君は行ってしまった。


 あんな広瀬君、初めて見た。
 
 男の人って、本当に、よくわからない。

 すごく真剣な恐い顔になったと思ったら、突然優しくなったり、ドキドキして、ものすごく苦しかったりするのに、話しているとほっとして、涙が出たり。

 本当に、よくわからない。

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