焼けぼっくいに火をつけて
文化祭の準備は楽しい。補習がないのはさみしいけど、こうしてクラスのみんなと、ワイワイ言いながら何かを作るのって、青春してるって感じ。

コンビニへお菓子を買い出しに行ったり。奥村先生や担任の小林先生が、時々差し入れを持って来てくれるし。

クラスが一体感持ってる。北見くん以外。

「いつまでやってるんだ、そろそろ帰れよ」
「はぁ〜い」

文化祭の準備期間中は、7時まで残ってもいいことになっている。今はもう7時半だ。

「駅まで歩く女子は送って行くから待ってろ」

栄明館高校は県庁所在地の、官公庁、大会社、商業地、住宅街が入り混じった場所にある。昼間は賑やかだけど、夜になったら、人通りがほとんどなくなる。
駅までは徒歩で10分くらいだけど、危険な目に遭ったことがある女の子は後を絶たない。女の子だけじゃなく、男子でもいきなり殴られたって話もよく聞く。

「わたし助手席ー!」
「わたしも助手席がいい!」

わたしを含めた女子4人。正門前で奥村先生のクルマを待つ。その間に、助手席争奪ジャンケン。

「失礼しまーす」

勝ち残った順に助手席、後部真ん中、左側。

真っ先に負けてしまったわたしは、後部座席の右側。運転席の真後ろ。せめて真ん中か左側だと先生の顔を見れるのに、ここじゃシートの上から、頭のてっぺんが少し見えるくらい。
だけど大したことじゃないのに、キャッキャッと同級生たちとはしゃぐ。

「センセイー、彼女っているの?」
「今は仕事が恋人」
「ヤダ、キモい」

これは、わたしのセリフ。わたしの言葉に、同級生たちもゲラゲラと笑う。

「北山は口が悪いな」

わたしからは見えないけど、苦笑している先生の顔が頭に浮かぶ。

「名前はかわいいのにね」
「愛理は顔もかわいいのに、何か残念な感じだよね」

好き勝手喋ってるうちに、あっという間に駅に着いた。

市の中心部から東に向かって、隣の県まで続いてるJRの駅に、わたし1人が先生のクルマから降りた。
後の4人は、南北に走っている私鉄線を使っている。
JRと私鉄線は駅が離れてるから、4人はもう少し先生といれるんだ・・・。

「愛理、また明日ね」
「うん、バイバイ」

同級生らに手を振って、クルマを降りた。

「先生、ありがとうございました」

運転席の外から先生にお礼を言った。メールでも入ったのか、先生はケータイを開いていた。

「!」
「気をつけて帰れよ」

出そうになった声を抑えて先生を見ると、何食わぬ顔でケータイを素早く閉じた。

「愛理、バイバーイ」

クルマの中から手を振る同級生に手を振りかえしながら、頭は別のことでいっぱいで、茫然としているだけだった。

アレは、何だったんだろう。

さっき、先生はケータイをチェックするフリをして、わたしにディスプレイを見せた。

『ここで待ってろ』

メール作成画面に並んだ文字。

(電車に乗らないで、ここにいろってことだよね)

私鉄線の駅まで、ここから5分くらい。往復で10分。同級生たちがクルマから降りる時間を入れたら15分くらいかな。

とりあえず明るい駅舎の中で、先生を待つことにした。
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