焼けぼっくいに火をつけて
昼休みが終わり田岡先生は講師室へ、わたしと川井さんは事務室に戻った。

パソコンを立ち上げると、平日の昼間にも関わらず、新たな受講申し込みが何件か入っていた。冬期集中コースの申し込みばかりだ。見ると、同じ学校の子ばかりだ。きっと学校で友だち同士で相談して、その場でスマホから申し込んだんだろう。

「便利な世の中になったもんだ」

年寄りっぽく呟きながら受付処理をしていると、郵便物の仕分けをしていたはずの川井さんが、ニヤニヤしながらわたしの横に来ていた。

「川井さん、どうしたんですか?」
「愛理ちゃんにプレゼントよ」
「プレゼント?」
「午前の社内便の中にあったの」

川井さんから、A4サイズの茶封筒を渡される。

社内便は毎日午前と午後に、第1校と本部が入っているここと、第2校、第3校の間を巡回して、文書や物を配送している。本部から個人宛の文書が送られることがあるけど、併設されてる第1校に社内便を使う必要はないから、第2か第3から送られて来たのか?

宛名は間違いなくわたしだ。差出人を確かめると。

「!」

“第3校 奥村慎一”

奥村先生からだ。

「ねぇ、ねぇ、何が入ってるのかな」

川井さんは好奇心を隠そうとしないで、わたしに寄りかかって来る。

わたしはといえば、口の中がカラカラで、勝手に早くなる鼓動を抑えようと、何回も深呼吸をしている。

「あ、あの!わたし、お手洗いに・・・」
「行ってらっしゃーい」

何を含んだような川井さんの声に送られて、わたしはそそくさとトイレに駆け込んだ。

深呼吸をひとつして、封筒を開く。中からA4の紙1枚。

『もしよかったら、今日も会いたい』

簡潔な言葉と、電話番号とメールアドレスが書かれている。急いで自分のスマホに先生の電話番号とアドレスを登録して、その場でメールを送った。

『わたしも会いたいです』

昼休みが終わった時間にも関わらず、すぐに奥村先生から返信があった。

『了解。今日は20時過ぎに終わる』

また会える。

自然と顔がほころぶのを感じた。同時に田岡先生の言葉が突き刺さる。もう関係は破綻しかかっているとはいえ、まだ北見くんと別れた訳じゃない。

だけど北見くんに対する後ろめたさよりも、奥村先生に会える喜びに、わたしは支配されていた。
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