焼けぼっくいに火をつけて
****

掻い摘んで話したつもりだったけど、随分時間を使ってしまい、昼休憩の時間も終わりに近づいていた。

「ハハハハハハッ!」

わたしの長い話を聞き終えた田岡先生は、何故か爆笑している。

「笑うような話はしてませんけど」

「だっておかしすぎる。そんな少女マンガみたいなことを、えりりんがしてたなんて」

「笑すぎですよ、田岡先生。愛理ちゃんは真剣だったんですから」

「普段のえりりんから想像できないでしょ。彼氏と10年も付き合ってて純愛してるのかと思ったら、ドローッとした過去があるなんてさ」

ヒーヒーいいながら笑う田岡先生から目を逸らした。

「その10年付き合ってる彼氏とは破局寸前でしょ?そこに過去に愛した男が登場なんて、やっすーいドラマみたいじゃない?金曜日にえりりんと奥村さんが消えてからのこと、みんな心配してたんだから。奥村さんは同期でも年上だから聞きにくいってさ」

「・・・・・・面白がってるだけですよね?」

「そんなことないわよ。ねぇ〜」

「少なくとも、わたしは愛理ちゃんのことを心配してたわよ」

「送ってくれただけです」

いつの間にか運ばれていたデザートのケーキに、グサリとフォークを刺した。

「はぁ、まるで共食いだわ」

フォークに突き刺したモンブランの栗を見つめて、ため息をついた。

「何、共食いって?」

「あの、『焼けぼっくりに火がつく』っていうじゃないですか」

「くり・・・・・・?」

「うん、だから共食い」

「それを言うなら、『焼けぼっくい』でしょ!」

「え、嘘っ!?」

慌ててスマホを取り出して検索していると、何故か川井さんまでスマホを操作している。



『一度焼けた杭は火がつきやすいところから、以前に関係のあった者どうしが、再びもとの関係に戻ることのたとえ。主に男女関係についていう。
[補説]「焼けぼっくりに火が付く」とするのは誤り。』
(デジタル大辞泉より)

「今日のえりりんは、ホントに笑わせてくれるわ」

「・・・・・・ちょっとした言い間違いです」

「それで、よく教師を目指してたわね」

「うううっ・・・・・・」

「・・・・・・『以前に関係のあった者どうしが、再びもとの関係に戻る』ってことは、愛理ちゃんと奥村さんは何かあったってことよね?」

再びヒーヒー泣き笑いしてた田岡先生と、項垂れて呻いていたわたしの声が、同時に止まった。

以前関係があった

もとの関係に戻る・・・・・・

もしかして、わたし、墓穴掘った?

「あったのね!焼きぼっくいってことは、何かあったのね」

「何にも、ないです」

「嘘だね。ホントに何にもなかったら、もっと否定するでしょ。えりりんって分かりやすいわ」

図星なだけに、何も言えない。下手に反論するよりは、黙っている方が得策だろう。ニヤニヤしている田岡先生から目を逸らした。

「焼けぼっくいはひとまず置いておいて。現実問題として、愛理ちゃんどうするの?破局寸前とはいえ、まだ彼氏と別れてないんでしょ」

「それは・・・・・・」

川井さんの言うとおりだ。わたしはまだ北見くんと別れていない。北見くんとは修復できないくらい拗れてしまってるけど、今の状態はわたしが浮気をしていることになる。奥村先生との再会に、浮かれていたわけじゃない。ただ、嫌なことから目を逸らして、現実逃避していただけだ。

自分に嫌気がさす。

わたしの表情が強張っているのが分かったのか、田岡先生と川井さんは、それ以上何も言わなかった。

< 27 / 28 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop