焼けぼっくいに火をつけて
♯2
ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ

スマホのアラーム音で目を覚ました。

「またあの夢」

卒業式の日の夢は、以前はたまに見るくらいだった。しかし最近は、かなりの頻度で見ている。

夢を見た朝は、本当に走った後のように息切れして、心臓がバクバク鳴り、疲労感が強い。

身体を起こしてから、ようやく隣に北見くんの姿がないことに気づいた。

「ゴメンね、北見くん。急いで朝ご飯作るから・・・」
「いい。家に帰って着替えるから、途中で何か買う」

慌ててリビングに出て行くと、北見くんは既に着替えていて、ボサボサ頭でパジャマ姿のわたしに、チラリと冷たい視線を投げつけた。

「ゴメン・・・」

項垂れるわたしに、北見くんは大きなため息を落とした。

「いいよな、予備校の事務員はゆっくりできて。こっちは朝から部活の指導してから授業なのに」

かちん

北見くんの言葉に、頭の中で音がする。

(予備校の事務員だって、立派な仕事よ)

以前のわたしだったら、大声で反論してただろう。だけど今のわたしは、唇を噛んで俯くことしかできない。

北見くんは、わたしたちが卒業した私立高校で数学の教師をしている。卒業生は採用に優遇されると聞いて、わたしも英語教師の採用試験を受けたけど、合格したのは北見くんだけ。

その後、県内県外問わず、随分と教員採用試験を受けたけど、ことごとく不合格。

英会話教室にも当たってみたけど、募集しているのは外国人講師ばかり。

ようやく手にした職場は進学予備校。ただし事務員。

『職業に優劣はないよ。仕事をしてるってことが大切なんだ』

教職に就けず、落ち込んでいたわたしを、北見くんは何度もそう言ってくれた。
なのに今の北見くんは、わたしを見下している。

バタン

わたしが考え込んでいる間に、北見くんは何も言わないで出て行ってしまった。

(どうしてこんな風になってしまったんだろう)

モヤモヤした気分で、仕事に行く準備を始めた。
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