【壁ドン企画】争奪戦の末に~男前彼女の場合~
「ちょっと我慢してね」

一応断りを入れたから遠慮なく左手を楓ちゃんの腰に回してやる。

彼女もけして俺のことを嫌っているわけではないと思うが、思いっきり引きつった顔をして必死に距離を開けようと胸を押してくる。

さりげなくひどいのは・・・お互い様か。

力を込めて赤くなる顔から目を離し、ちっともこちらに気づいていない良子たちに声をかける。

「そこのお二人さん。そのまま続けるなら、愛しの楓ちゃんを横取りしてみるけどいい?」

笑えるくらい素直にショックを隠せない啓太君のアホ面に胸のわだかまりが少しだけ溶ける。

しかし、肝心な良子といえば、キリキリと眉を吊り上げている。

大股でこちらに向かってくる良子を両腕に迎えようと、楓ちゃんから離れたが、良子が向かった先は俺ではなく、楓ちゃん。

「高志!!私の身長で楓にできないことしてる!!」

すぐ目の前の女性に可愛い自分の彼女を奪われている現状に涙が出そうだ。

妬いてくれたのかと期待した俺を裏切って、小柄な良子は背の高い楓ちゃんの胸に顔をうずめるように強く抱きついている。

もちろん女の子のほうが抱き心地はいいだろうが、そこは彼氏の胸に飛び込んできて欲しいところ。

「おい、代われ柏木!そこは俺の場所だ!」

ようやく茫然自失から戻った啓太君が良子と楓ちゃんを引き剥がす。

突き飛ばされてたたらを踏む良子をやっと腕の中に収めるが、当の良子は楓ちゃんの元へ戻ろうと身をよじる。

絶対に離すつもりはないけれど。

「良子、待たせてごめん。」

唇を良子の耳に寄せて囁けば、ビクリと身じろぎし、小さな身体は抵抗をやめる。

恐る恐るこちらを見上げる姿は反則的に可愛い。

「遅い」と呟いた良子の声を逃さす聞き取って、頬が緩む。

大分待たせたのはこちらだ。そのくらいの文句はあって当然だ。

すぐに後頭部しか見えなくなるが、短い髪の毛の間から覗く耳が赤く染まっていることに気をよくする。

「じゃ、今日はこれで解散ってことで」

腕の中に楓ちゃん納めた啓太君の背中に声をかけて、その場を離れるべく大人しくなった良子の肩を抱く。

「私の楓を泣かせるんじゃないわよ!」

見事な捨て台詞を投げる良子とともに二人を残して家路につくこととした。
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