【壁ドン企画】争奪戦の末に~男前彼女の場合~
「二人を引き合わせたのは良子だろう?」

どんどん先を歩いていく良子の手を捕まえて、歩くペースを俺に合わせてやる。

掴まれた手を嫌がることもなく、握り返してくる辺り、やりすぎた自分の行動を後悔しているのだろう。

親友を大事にする気持ちはわからなくもないが、会うたびに突っかかっていく良子の気持ちは俺には理解しがたい、割り切れないものがあるのだろう。

「楓の愚痴を聞いてたら、腹が立つのよ。あんな可愛い子、大事にしろっての」

男と口喧嘩をしていた勢いはなりをひそめ、頼りなくうなだれた項を堪能しているなんて、良子に知られたら一発殴られそうだ。

マンションに到着すると、繋いでいた手を解いて、集合ポストを覗きに走っていく。

女友達に嫉妬する彼氏が、まさに今の自分なのに情けなさを感じる。

「良子は俺の愚痴を言ってるの?」

階段に向かおうとする良子の行く手を遮り、さらに退路も塞ぐように両腕を伸ばして良子の脚を止める。

ポストと俺の腕の中に閉じ込められた良子は一瞬こちらに驚いた顔を見せたが、すぐに前を向いてため息をつく。

「するわけないじゃない。高志が、大人の余裕のある積極的な男で、過不足ない距離感を保って大事にしてくれてるって、惚気聞いたって何も楽しくないでしょ?」

思わぬ褒め言葉に、良子が軽く押しただけで進行方向を開けて渡してしまった。

階段を数段上がったところで良子が振り返る。

月明かりの中、背筋をしゃんと伸ばした凛々しい立ち姿に思わず見惚れる。

大事な親友のために心底怒り、さらりと欲しい言葉を言う彼女の男前加減に惚れ直さずにはいられない。

「高志、ちょっと」

手招きされたので、できるだけ何事もなかった顔をして階段に脚をかけると、良子にいきなりネクタイを掴まれる。

バランスを崩して壁に肩をつけて転倒を避ける。

階段を踏み外したら俺の体重で良子まで階段から落ちかねない。

階段の段差で身長が逆転し、いつも見下ろす顔に、上から覗き込まれる。

射抜かれそうな強い瞳に、危ないだろう、と口を開くのをためらわれた。

「たぶん、高志が思うより、私のほうが高志のこと好きだからね」

自信満々に宣言され、噛み付くように唇を奪われる。

すぐにネクタイから良子の手は離れ、階段を昇って行ってしまう。

追いかけることが当たり前だと思っている背中に苦笑する。

煽ったのはそちらなのだから、今晩は覚悟しろよ、と唇に残る熱を手で覆って、ニヤける頬を隠す。

どちらが大人なんだとか、どうでもよくなる。

いつか同じことをして、惚れ直させてやろうと決心し、先をいく足音を追った。

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