キスよりも熱いもの

 ガツガツくるタイプをあしらうのは結構疲れる。
 石渡君は同期の女の子の中でも一番の人気がある。イケメンだし営業部でも有望株らしい。昔からモテて自分に自信があるからこそああいう風に直球でくるんだろう。


「もう用は足したのか?」


 急にかけられた声に私は驚いて背中を離した。


「椎名……」


 振り返るとデリカシーのない言葉を発した男が店の方から歩いてくる。
 なんとなく視線を合わせるのが尺で、私は自分のつま先を見た。


「静かなんだな、ここ」


 店の入口側から通路を抜けた所にこのトイレはある。
 フロアにはさっきの居酒屋しかないので、従業員くらいしか使う人はいない様だった。


「何、酔っ払った?」


 心配そうに、ではなくあくまで淡々と椎名が問う。クールと言えば聞こえはいいが、要するにただの無神経だ。

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