キスよりも熱いもの
「……見て見ぬふりしといて今更何」
顔を上げないままで絞り出した声は自分でも嫌になるくらい力がなかった。
虚勢を張った言葉が台無しだ。
こんなの私のキャラじゃない。
「あれくらいあしらえない篠塚じゃないだろ」
ええそうですよ。慣れてるし別にあれくらいどうってことない。石渡君だってうんざりするほどしつこいってわけじゃなかった。
私が無性に腹を立てているのは、全く興味なさそうにこちらをうかがいもしていなかったこの男だ。そして認めたくはないけれどその事に内心いじけている私自身だ。こいつはこういう性格だって嫌って程知っていたはずなのに。
そう思いながら顔をあげると、依然として表情の変わらないヤツと目が合う。眼鏡が通路の蛍光灯を反射してクールに光る。
ねえ何とも思ってないならどうしてここまで来たの。
私を気にして追いかけてきたならちょっとくらい心配する素振りくらい見せてよ。
「まあね、あれくらいどうって事ないし。やっぱ口説かれるって気分いいじゃない?石渡君結構イケメンだし」
気づいた時には感情とは逆の言葉が口をついて出ていた。それが虚勢にしか聞こえないだろうというのは分かっていても、言葉がもう止められない。