記憶と共に幽霊と。
『姫、俺が時間を稼いでいる隙に…!』
男性が腰にある剣を抜き、構える。私には表情が見えないが、恐らく、今にも死にそうなほどに怯えているのだろう。
『その必要はないわ。私はここで、死ぬの』
私が喋る。男性は驚いて振り返り、鎧の男たちはザワザワと騒ぎ始める。
『姫…?バカなことはやめてください…!あなたには…まだ…!』
男性の懇願するような声が聞こえる。私はその声を無視して机の上にあった短刀を手に取る。
『さようなら、“    ”』
私は聞き取れない言葉を発し、胸に短刀を突き立てた。
男性が倒れる私を抱き抱え、涙をポロポロと落とす。
全身に広がるような痛みのなか私は男性に微笑みを向け、目を閉じていった。
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