悪縁男子!~心ごとアイツに奪われて~
すくっと立ち上がったあたしは、柳の脇を抜けて走り出そうとした。……のだけれど。


「ちょっと待てよ」


上履きを持ったあたしの手首が彼に掴まれ、引き止められてしまった。


「離して!」

「何で突然逃げんの」

「何でもいいでしょ!」

「よくない。理由を言え」


振りほどこうとしてもそれはかなわず、少し怒ったような鋭い眼差しに一瞬怯んでしまう。


「っ、あんたといるとこを見られたら厄介なことになるから!」


とりあえず理由を言えば離してくれるだろう。

そう、思ったのに。


「……ふーん? なんかよくわかんねぇけど、とりあえずお前だってバレなきゃいいんだな?」


無愛想な顔でそう言った柳は、掴んだままのあたしの手首を自分の方へ引っ張った。


「ひゃっ──!」


ぽすん、とぶつかったのは柳の胸。

そして、彼の腕に覆われて周りが見えなくなった。


あ、あたし……抱きしめられてる──!?


「ちょっ、何やって……!」

「こうしてればお前の顔見えないだろ」

「でも目立つし……! ていうか離してよ!」

「やだね」


えぇぇ、なんでーー!?

< 148 / 292 >

この作品をシェア

pagetop