悪縁男子!~心ごとアイツに奪われて~
意地悪そうに口角を上げる横顔が憎たらしい。

ったく、おじさんといい秋史といい、これからも厄介な存在になりそうだ……。


赤信号に差し掛かりゆっくりブレーキを踏む秋史は、小さくため息をつく俺を興味深げに見てくる。


「今日も、二人きりでいて何もなかったの?」


展望台で、唇を寄せた瞬間のアイツの悩ましげな顔を、瞬時に思い出す。


「……別に何も」

「皆の前で好きだって宣言したくせに、ひよりちゃんの前では根性ナシか」

「うるせーよ!」


ぐりん、と窓に顔を背ける俺の耳には、クスクスと笑う声が届いた。

くそ……あの時邪魔さえ入らなきゃ、今頃ひよりは俺のものに出来ていたかもしれないのに。


いや、あのままキスしたら暴走していたかもしれないから、止めてもらえてよかったのか

……とでも思っておかないとやりきれない。


本当に今ドラムかギターがあったら、この悶々とした気分を発散させてるけど。

もう俺もわかっている。

そんなんじゃ、アイツへの気持ちを抑えきれないってことを。


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