真夜中のパレード

咄嗟に紙ナプキンを重ねて拭き取る。



白い紙が黒く染まっていく様子を見ていると、
どんどん不安が押し寄せた。


指先が、カタカタと震えている。



――落ち着け。

別に、想像の範疇だ。




『彼女の名前が偽名だ』




ということなんて、充分考えついた範囲の出来事だ。



そう思いながらも、
湧き上がる様々な感情に頭が追いつかない。



騙されたという怒りは
驚くほどにほとんど感じなかった。


むしろ一番強かったのは、恐怖心だった。



――怖かった。


あらためて、藤咲天音と自分との繋がりが
すぐに途切れてしまう脆弱な物だと認識させられたからだ。


それから少し自嘲気味に笑う。



『藤咲天音』では、ない。

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