課長が私に恋してる?


「んっ…」



甘い声が思わず口から漏れて。
しまったと慌てて口をふさぐ。



青ざめながらチラリと如月の顔を上目づかいに見上げると、彼は驚いたように琴子を見つめていて。すぐに視線を逸らされる。



「………阿呆。襲うぞ」



「お、襲……!?か、課長が手なんか掴むから……っ」



「俺のせいか」



「あなたのせいです。第一この格好恥ずかしいんで早く解放してください。掴んでる手も」



「だったら早く結べ」



「ええええー!」



ようやっと結び終わったネクタイは少し不恰好で。
それでも如月は結び直さなかった。
そのことが、なんだか無性に心臓を早くさせた。


ーーーーーーーー……
ーーーー…



(嬉しいとか、思いたくないのになー…)



そんな、今朝のことを思い出しながら見つめる先には変わらず不恰好なネクタイをした課長。



ちょうど他部署からやってきた彼の同期の男性社員に目敏く気づかれている。



「あれ、如月。
お前ネクタイ変になってるぞ。らしくないな、直してきたらどうだ?」



(うわああああああごめんなさいいいいいいい)



穴があったら入りたいどころかもぐって土下座しながら写経でも唱えていたい。
青ざめながら心の中で平謝りを繰り返す。



しかし如月はそんな同期にニヤリと笑って。



「大丈夫だ。問題ない」



「いやいやいやいや」



盛大なツッコミを受けていたのだった。

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