雪の日デートとクレープと
「な、なにこれ……?」

 彼の腹に座る私は壁――というかガラスに片手をついており、尻餅をつく彼を見下ろしている。男の視線はこういう感じになるのか。なるほど、勉強になります。

「雪道で走らない」
「はい。ごめんなさい」

 呆れる彼に頭を小突かれて項垂れる。

「まあ、無事なようだからいいけどな」

 抱えられながら立ち上がると、周りからやんややんやと声が上がった。うわ、注目の的だ。

 湧き上がる羞恥に顔を伏せれば、私を隠すように彼が前に立つ気配がする。

「お騒がせしてすみません。――ほら行くぞ。クレープ食うんだろ?」

 引きずるようにその場から立ち去る彼が少しして「濡れてないか?」と聞いてくるから、目線だけ上げてみた。

「私は大丈夫。そっちは?」
「ケツが割れるぐらいには冷たいな」
「お尻はもとから割れてるでしょうが」

 「まあな」と返し「でも大丈夫だ」とも続ける。

 「そっか」と繋いだ手を握り返して、彼を見上げた。

「ね、私が食べたいクレープはなんだと思う?」
「あれだろ?」

 『チョコバナナ!』とハモる声にどちらかともなく噴き出した。

 お客さんが並んでいないクレープ屋での「チョコバナナクレープ」はほどなくして渡され、手のなかにあるクレープにかぶりつく。

 「ひとくちくれ」と彼はクレープとともに私を壁際まで追いつめ、今度は私が彼に落ちた。

 ひとくち食べ終えてからのキスなんて反則だから。私がまだ食べているのに。――そこのところ解ってるよね? 笑ってないで答えなさいよ。



ー了ー
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