雪の日デートとクレープと
「な、なにこれ……?」

 彼の腹に座る私は壁――というかガラスに片手をついており、尻餅をつく彼を見下ろしている。男の視線はこういう感じになるのか。なるほど、勉強になります。

「雪道で走らない」
「はい。ごめんなさい」

 呆れる彼に頭を小突かれて項垂れる。

「まあ、無事なようだからいいけどな」

 抱えられながら立ち上がると、周りからやんややんやと声が上がった。うわ、注目の的だ。

 湧き上がる羞恥に顔を伏せれば、私を隠すように彼が前に立つ気配がする。

「お騒がせしてすみません。――ほら行くぞ。クレープ食うんだろ?」

 引きずるようにその場から立ち去る彼が少しして「濡れてないか?」と聞いてくるから、目線だけ上げてみた。

「私は大丈夫。そっちは?」
「ケツが割れるぐらいには冷たいな」
「お尻はもとから割れてるでしょうが」

 「まあな」と返し「でも大丈夫だ」とも続ける。

 「そっか」と繋いだ手を握り返して、彼を見上げた。

「ね、私が食べたいクレープはなんだと思う?」
「あれだろ?」

 『チョコバナナ!』とハモる声にどちらかともなく噴き出した。

 お客さんが並んでいないクレープ屋での「チョコバナナクレープ」はほどなくして渡され、手のなかにあるクレープにかぶりつく。

 「ひとくちくれ」と彼はクレープとともに私を壁際まで追いつめ、今度は私が彼に落ちた。

 ひとくち食べ終えてからのキスなんて反則だから。私がまだ食べているのに。――そこのところ解ってるよね? 笑ってないで答えなさいよ。



ー了ー
< 2 / 2 >

ひとこと感想を投票しよう!

あなたはこの作品を・・・

と評価しました。
すべての感想数:1

この作品の感想を3つまで選択できます。

  • 処理中にエラーが発生したためひとこと感想を投票できません。
  • 投票する

この作家の他の作品

それは嘘から始まる。

総文字数/15,485

恋愛(学園)17ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
こっぴどく振られた友達の為に、復讐をすることにした天地時雨《あまちしぐれ》。 相手は同学年の西名優《にしなすぐる》である。彼は学校内では王子と呼ばれ、スタイルよし顔よし。そして文武両道。 桁違いな優に、友達思いの時雨の復讐は成功するか否か――。 それは嘘から始まる。 Start:2012/4/25 End:2012/10/5 【 ご注意 】 ·他所(魔法のiらんど)で書き上げたものをコピー ·コピー時に誤字脱字を修正しました (コピー·2016.06.13~06.14) (公開:2016.06.14) 備考: 魔法のiらんど:http://s.maho.jp/book/ce9a04c06f1b8347/6217712010/ 野いちご/ベリーズカフェ(ここ):http://no-ichigo.jp/read/book?book_id=1336751 に掲載しています
ハードルは高いけど。

総文字数/1,000

恋愛(ラブコメ)2ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
いくらスペックがよかろうが、どうにもこうにもハードルが高いわけです。 短編コンテスト 『オフィスの擬人化★Prince』用に勢いで書いた代物 自·2015.11.29 至·2015.12.02
その時まで、三秒。

総文字数/1,263

恋愛(その他)3ページ

表紙を見る 表紙を閉じる
アイツとあたしが付き合いだしたのは、ただの気紛れだ。 幼馴染みな男女の恋模様/高校生/※キスシーンあり 執筆開始:2010/12/14 執筆終了:2011/6/2 ※個人サイトに転載済み。

この作品を見ている人にオススメ

読み込み中…

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop