先生の手が触れる時

「………」

見上げるのは
少し前まで住んでいた家。

つまり、父が今ひとりで住んでいる家だ

今日は土曜日だからいるはず…

意を決してそっとインターホンに指を伸ばす

この場にそぐわない音が2回ほど鳴ると
父の声がインターホンから聞こえる

「………はい」
「…凪です」
「っ!」

父は私の言葉を聞くと息を飲む

そして少しの時間のあとそっとドアがあいた

「お前…」
「………久しぶり」

少し痩せたかな…

「……話があるの」
「入るか?」

その言葉に首を横にふる

「……今日の夜、私の家に来て」
「……………」
「それじゃ」

目をむいたままの父に頭を下げて歩き出す

これで良い。

二人で始めたことは

二人で

“終わらせよう”

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