クールなお医者様のギャップに溶けてます
一通り練習を終え、裏で待機。
お父さんに不安を感じながらも、会場の方からは少しずつ参列者の声が聞こえ始めた。
「ちょっとトイレに行って来る!」
何度目よ…お父さん。
まぁ、生理現象だから仕方ないけどさ。
「亜樹。」
「ん?」
「誓いのキスは頬にするからな。」
練習の時にプランナーさんが「誓いのキスは頬か口か決めておいて下さい」って言ってた。
何かずっと考えていると思ったらその事だったのか。
「ご両親の前じゃ恥ずかしいだろ?口には式が終わったらたっぷりしてやるから。」
「そ、そういう事を言わないで下さいっ!!」
「ハハ、その赤い顔、早く何とかしろよ。俺はそろそろ行くから。」
「もうそんな時間?お父さん、早く帰って来ないかな。」
するとタイミング良く、バタバタっとお父さんが帰って来た。
「出るもんも出やしねぇ。」と言うお父さんの一言に笑ったら、少しだけ緊張が解れた。
「それでは、新郎様、先に出ます。」
介添えさんの合図で聡さんが先に会場へ入って行く。
その瞬間、会場内がざわついたのは言うまでもない。
今日の聡さんは特別カッコいいから。
「続いて新婦様とお父様ご入場です。お父様、新婦様のお手を取ってあげて下さい。新婦様はベールを上げたままでお父様とお手をお繋ぎ下さい。」
練習していても、よく分からない儀式の流れに、言われるがまま私とお父さんはガチガチになりながら手を繋ぎ、扉の前まで進む。
そして、扉が開き歩き出す…予定だったけど、扉が開いた目の前にはさっきの練習でいなかったお母さんが現れた。
「お母さん?」
「亜樹、幸せになるのよ。」
この言葉をきっかけにお母さんが私にベールを被せてくれる。
介添えさんにポンと背中を押され、お父さんと同時に進むけど、お母さん、お父さん、私の目には涙が溢れていた。
あとから聞いた話では、この瞬間が参列者の皆さんの一番の感動を誘ったらしい。