クールなお医者様のギャップに溶けてます
今は9月。

医師の異動というものは私が勤める中小規模の病院にはほとんどない。
中には辞めていく医師もいるけど、その大半は後任が決まる3月まではいる。そして、新しい医師が4月から赴任してくる、というのが通常の流れだった。
だから9月という中途半端な時期の異動は不思議で、情報通の花絵が教えてくれなかったら誰かに聞いて回っていたかもしれない。

「この前一人医師が辞めたじゃない?開業するとか言って。その先生の後輩で、とりあえず3月まで来てくれるらしいよ。」

へぇー。
元いた医者の後輩っていうことは大学病院からの派遣だ。

「どんな医者なの?」

「師長がイケメンだって言ってましたよ♡」

「…こうちゃん…やっぱりそっち系なの…?」

あまりはっきり聞いた事なかったけど、頬に手を当て体をくねらせて話すこうちゃんの姿はまるで少女漫画に出てくる恋する乙女の像だ。
引き気味で恐る恐る聞くと頬を膨らまして反論してきた。

「僕はストレートですっっ!半年前まで彼女いたの知ってるじゃないですかぁ。」

「あぁ、そういえばそんな話ししてたね。ごめんごめん。忘れてた。」

「もうっ、忘れるなんてひどいですぅぅ。花絵先輩、なんとか言って下さいよぉ。」

話しを振られた花絵はまたも苦笑い。

「亜樹は美人なくせに恋愛経験がないし、そういうの疎いから言うだけ無駄だよ。こうちゃんの恋話には興味ないってさ。」

花絵ちゃん。
私、モテモテの花絵とは全然違うよ。
27にもなって告白した事もなければ、された事もないんだよ?
それに色々フォローになってないし。

「僕に興味持って下さいよぉ。」

ほら。
またまとわりついてきた。
そして…

「あなたたち!朝礼始まるわよ!」

…師長に怒られた。

キッとこうちゃんを睨むとぺろっと舌を出して笑ってる。
騒ぐ→師長に怒られるっていう流れ、一体何度目?
まったく。

でも、憎めない。

早く帰るように促して、花絵と一緒に朝礼が行われる会議室へ移動する。
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