碧い人魚の海
 漁師の銛が命中し、南の海が大きな魚の血で真っ赤に染まる瞬間を、殺された魚の目を通してルビーは見た。
 アシュレイは海から引き揚げられ、甲板に横たえられ、内臓を抜かれて、大きなのこぎりで切り分けられた。内臓は海に捨てられ、浮袋に、もつれながら広がる長い腸(はらわた)に、沈んでいく心臓に、大小のたくさんの魚が群がった。船の上に残る骨と肉が削ぎ分けられ、肉をさらに切り分けられ、バラバラにされて氷を入れた樽に詰められて陸に運ばれた。

 自分の命が消える、最期の最期にアシュレイは願ったのだ。
 もしも叶うなら、自分の命と引き換えに、人間に捕われた小さな人魚を救い出せたらと。
 その日の明け方、海の波はさざめきながら、魚の願いを、遠い遠い北の海まで運んでいったのだった。


 深海に降りつづける死んだプランクトンの雪のように、心には悲しみが降り積もっていくのに、ルビーの身体には今、静かなエネルギーが満ちてきていた。
 ルビーは椅子の足元の、鮮やかな赤い色をした自分の尻尾に目をやった。
 尾びれの付け根のくびれの部分に、つなぎ目のないつるんとした輪っかがはめられている。象牙のような白い色をしたアンクレットが、徐々にその色を変え始めていた。
 桜貝のような淡いピンクに、さらに宝石のルビーのような鮮やかな赤に。

死んだアシュレイの血の色だわ。

 アンクレットの色の変化と、そこに宿る新しい力を感じながらも、ルビーの心は深い悲しみに、涸れることのない涙をこぼし続けた。
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