碧い人魚の海
 大きな公演の行われる大ホールは敷地のほぼ中央に位置している。その入口に向けて昼の回の公演を待つ人々が、長い列をつくっていた。
 大ホールの周囲には小さな小屋が幾つか並び、それぞれ小銭を払って中に入れるようになっている。小屋によって中の様子が少しずつ違う。檻があったり、板の柱ごしやカーテンの隙間から覗けるようになっていたり、単に柵で隔ててあるだけだったりする。ルビーがときおり入ることもある小屋もあって、そこでは柵の向こうに小さな水槽が用意されている。

 ルビーは小屋の前にいる呼び込みの横をすり抜けて、一つ一つ中を見て回った。ロクサムの姿はどこにも見当たらなかった。あとは大ホールしかない。めったになかったことだが、きょうは大ホールにいるらしい。何かの演目に出演するのだろうか。

 小屋を一通り見て回ったあと大ホールの前まで戻ったら、既に入場が始まっていた。ルビーは人の流れについて中に入った。

 ルビーも大ホールの演目に出演する日が半分ぐらいはあった。そういうときは透明なガラスを張った大きな水槽の中に入れられる。出演しない日は、さっき見て回った小屋の一つの中の、浴槽ぐらいの大きさの上から覗ける水槽に入れられる。
 なので、見世物小屋に来てからもう何十日も経っているのに、他の人間の演目をちゃんと見るのはこれが初めてだった。

 大玉転がしが大玉に乗って、舞台の上を縦横無尽に走り回る。今にも転びそうで転ばないひやひやさせるパフォーマンスをして見せたかと思うと、一転して全く危なげなく大玉の上で逆立ちをしたりダンスを踊ったりする。
 身体の異様に柔らかいぐにゃぐにゃ女が不思議なパントマイムを披露してみせる。と思ったら女は用意された小さい箱の中にパタンパタンと身体をたたんで入ってしまった。

 指揮者の扮装をした男が出てきたかと思うと、男のタクトに合わせて犬の集団が、歌でも歌うようにリズムをつけて鳴く。そのあと揃って平均台を渡り、平行に並べられたハードルを越える芸を見せる。
 怪力男は目の前に差しだされたいろいろなものを、次々と破壊していく。しまいには丸太を真っ二つにし、10枚重ねた皿を上からこぶしで叩き割って見せた。
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