碧い人魚の海

 11 見習いへの格下げ

11 見習いへの格下げ


 舞姫はゆるくウェーブのかかった暗い色合いのブロンドの髪ときれいな青い目をしていて、すらりと背が高い。全体的にほっそりとした体型なのにも関わらず、胸元と腰の重量感はルビーの倍ぐらいある。そして、その胸元と腰のくびれを強調するような短い丈の服を、いつも着ている。
 だから、ルビーに貸してくれた服も、これ以上は短くできないだろうというほど丈の短いショートパンツと、深く襟ぐりの開いた袖のない短いシャツだった。いつも舞姫がかっこよく着こなしているはずの服は、ルビーが着ると、パンツはぶかぶかでシャツの胸元もだぶだぶだった。
 貴婦人の夕食会のときから着ていた絹のドレスは、衣装係が回収に来た。洗濯をしてから衣装箱にしまって、また何かのときに使い回すらしい。

 舞姫は今、ルビーの隣で、ベッドの縁に腰掛けてナイトパックをしながら、長い髪を櫛で梳かしている。

 ついさっきまでルビーは舞姫らとともに、座長や副座長や補佐役を交えた気づまりな夕食会に、強制的に参加させられていた。おかげで、あとでもう一度ロクサムを訪ねて、さっきのよそよそしい態度がどうしてなのかを聞こうと思っていたのに、できなかった。
 何人もの人間を巻き込んで喧々囂々(けんけんごうごう)の言い合いになった夕食会のあと、ルビーは舞姫の部屋に連れて来られた。
 一座の花形から一転、見習いに格下げになることが決まり、座長がルビーから個室を取り上げたためだった。

 といって、ルビーのこれからの身の振り方がはっきり決まったわけではない。とりあえず何かの見習いからのスタートになるらしかったが、それが空中ブランコなのか、踊りなのか、大玉乗りなのかははっきりしなかった。
 人魚だったルビーは自分の部屋の中を移動するのにさえ苦労していた。人間になった彼女に一体どれほどの身体能力があるのかについて、だれも知らなかったのだから無理もない。

 ルビーは座長から、きょうから大部屋で雑魚寝だと言い渡されたが、舞姫が反対して、自分のところに連れて行くと言った。
「格下げのメンバーはいじめられやすいからね」
 隣の席に座ったルビーの耳元で、舞姫はそうささやいた。
「みんな普段から特別待遇をやっかんでるからさ。大部屋に移されたとたん、服や持ち物を隠されたりするんだ」
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