思い出の中にいるきみへ
「だったら、ちゃんと役割を果たして」

「だからって、これは何の真似だよ」

 杉浦と壁に挟まれて動けない。

「理玖との初デートを再現してるんじゃない。自分で言ったんじゃないの。理玖になってやるから、どこまでもつき合うって」

「確かに言ったけど」

 こいつとデートしたくて花火大会に誘ったけど、速攻で断わられた。

 理由を聞いてみると例のヤツとの初めてのデートだと言ったから、
 きっと色んな思い出が詰まっているんだろうとは思ったし、
 大切にしたいんだろうとは思った。

 けど、どうしてもこいつと出掛けたくて。

 地元で行われる花火大会は秋のビッグイベント。

 来年は受験生。
 それを考えると今年しかチャンスはないかもしれない。
 どんな形でもいい、杉浦と一緒にいたかった。

「ねえ、ちょっと屈んで」

 言われる通り少し腰を落とすと、俺の顔の横に両手を突いた。
 至近距離でぶつかる視線。

 これじゃ、まるで……

 俺をじっと見つめる杉浦の妖しい雰囲気にいたたまれず。

「なあ、おい。花火見ねえの? まだやってるけど」

 
 花火大会は始まったばかり。
 夜空を明るく彩る花火と観客たちの歓声が遠くに聞こえていた。

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