真実アイロニー【完結】
そっと両肩を掴むと、彼女の顔を見つめた。
薄い茶色い瞳が俺を捉える。
その、瞳に映る俺の姿。
「……小早川」
ぽつり。
そう呟くと、ゆっくりと顔を彼女へと近付けた。
俺が瞼を閉じるのと一緒に、彼女も瞼を閉じる。
彼女の柔らかい唇が、俺の唇に触れた。
薄く色付いた彼女の、小早川の唇。
角度を変えては再度、触れる。
やっぱり小早川は無表情で。
ニコリともしない。
その、茶色い瞳の奥には。
きっと、琥珀君しかいない。
もう。
それでも構わなかった。
先生と、生徒。
その日、俺は一線を越えた。
そんな時でも、彼女は彼を忘れない。
甘い声と共に、彼女が触れたのは。