真実アイロニー【完結】
漆黒の闇。


情事を終えた後、小早川が衣服を身に纏いながら口を開く。



「あ、誰にも言わないから安心してね」

「え?」

「だから、寝た事」



俺の顔を見る事なく、そうはっきりと言われて思わず息を呑んだ。
俺の反応なんか、一切気にならないのか彼女は続ける。



「だって、先生も人間でしょ?
我慢出来なくなる時もあるよね」

「……こばや、かわ」

「いいよ、別に。抱きたいならいくらでも。
これでも感謝してるんだ。先生には」

「感謝?」

「うん。私から遠ざけたくてやった事だったけど、あれから誰も私に近付こうとしなかったし。
反応は伯母家族と一緒。腫れ物を触る様に、皆よそよそしかった。
まあ、それも分かってたからいいんだけど。
だからね、先生が私に執拗に話しかけて来た時は驚きや鬱陶しさと同時に嬉しさもあったんだ」



小早川は少しだけ顔を俯かせて、静かに微笑んでいる。
まるで、その時の事を思い出しているかの様に。



「ああ、こんな私を気にかけてくれる人がいたんだって」

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