真実アイロニー【完結】


全てを諦めていた彼女。


俺は、その彼女の支えに少しでもなれたのだろうか。



なあ、小早川。


問いかけようと、声を出そうとするのに。

口から漏れるのは情けない嗚咽ばかりで。



「やあだ、先生。何で泣いてるの」



俺はどうしても言葉が出せなくて、これ以上涙が出ない様にと歯を食いしばってみるが、それに反して目からは涙が溢れた。
こんな情けない姿なんて、見せたくない。

そう思うのに。


俺の瞳からは、何故か涙が止まらない。


きゅっと小早川が俺の事を包む。
優しく、優しく、そっと包む。



「先生、私は琥珀の次に先生が好きだよ」

「……っ」

「一生、琥珀が一番なんだ。ごめんね、先生」



彼女の綺麗な唇から、残酷な言葉が紡がれる。
それでも、どんな愛の告白よりも俺は嬉しかった。
心が揺さぶられた。


どうしようもなく、小早川が欲しいと思った。



それは叶わない、そう思うのに。



小早川を欲しい、と。



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