キミノ、テ。
第三章 知らない感情



「あ、すみませんね。全然気づかなくて。
私考え事をしているとなにも聞こえないことがよくあるの。」


彼女はそう言ってにっこりと微笑んだ。

普段から[人]というものに感心のない僕は、
何を考え込んでいただとか、気づかなかった経緯など、
正直なところどうでもよかったが、
はじめての店ということもあり、一応答えた。

「いえ、構いません。」

愛想のない僕に対して、大体の人間は、
少しムスッとした表情を浮かべるのだが、
彼女は表情一つ変えず、不思議そうに
またこちらに向かって微笑んだ。

そんな彼女を見て不覚にも、
初めて心がほっこりと暖かくなるのを感じた。
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