オレ様専務を24時間 護衛する Ⅱ
「とっても美味しかったですね」
「フッ、……だな」
少し早めの夕食を終え、
俺は自宅のある最上階へと向かう為、
エレベーターのセンサーにIDキーをかざした。
希和はマンション内に店舗があるということに衝撃を受けたようだったが、それもそのはず。
これまで、自宅のあるタワーマンション内を散策したことが、一度も無いからだ。
俺は完成直後に1度だけ廻ったことがあるが、それは仕事の一環として。
しかも、挨拶廻りをしただけで、店舗で食事をしたことはない。
何年も住んではいるが、他の住人達と交流を持つことが無いため、
敢えて使用して来なかったというのが正しい。
本当に心を許すような友人知人以外は皆、
俺=御影の御曹司という存在を『打ち出の小槌』か何かと勘違いしている。
飲食店で顔を合わせたら『奢るのが当然』と思い込み、
一度挨拶したくらいで、あたかも友人のように振舞うやつは数知れず。
まぁ、そいつらの飲食代くらい支払ったところで痛くも痒くもないが、
1度すれば、2度3度と輪をかけて接して来る奴はごまんといた。
人間、『金』が嫌いな奴は稀。
だからこそ、『金』で付き合うような奴とは関りたくない。
俺は、敢えて顔を合わせず済む方法を選択して来た。
仕事で接する以外は、例え自社の社員であっても会うことはない。
それが、決してブレない俺のスタンス。
同じマンションの住人とはいえ、交流を持つ気が無いのに
何度も顔を合わせ、その度に社交辞令の挨拶をするのが苦痛で。
自ら厳選した店舗であっても、店を訪れたことが無かった。
彼女が来る前は、たまに出前を頼むことはあったにせよ……。
それほどまでに貫いてきた信念だが、
彼女の今の状態を考えたら、そんな些細なこと、どうでもよくて。
如何に負担掛けずに済む方法は何か、それが知りたいだけだ。
出前を取ると言えば、『作ります!』と譲らないだろうと思い、
外出するのは避けたいところだが、マンション内ということもあり、
俺は飲食店街で食事をする決断に至った。