オレ様専務を24時間 護衛する Ⅱ


スーッと遠のく彼の気配。

これって、デジャヴ?

思考が働くより早く、反射的に体が反応した。


「どちらへ?」

「ゲストルーム」

「何故です?」

「理由はない」

「嘘です」

「…………」


彼の服を掴んだ指先が震えている。

彼の優しさだって分かってる。

だけど、拒絶された気がして、心が痛い。

馬鹿で愚かでどうしようもない女だって思われてもいい。

今だけは、拒まないで欲しいのに。


「泣くな」

「泣かせたのは、誰ですか」


涙が頬を伝うのが分かる。

人前じゃ泣いた記憶が殆ど無いけど、

何故か、京夜様にはいつも泣き顔を見せてしまっている。


そっと指先で涙を拭いながら、溜息をつく彼。


「悪いが、何もしてやれない」

「そこを何とかお願いします」

「お願いって、…………普通、お願いするような事か?」

「何と言われましても………」

「ったく、頑固な女だな」

「今頃お気付きですか?」

「いや、知ってはいたが、こういう時にも発揮するものか?………普通」

「勝負ごとに、躊躇は死を意味します」

「フッ、俺が断ると言ったら?」

「えっ?」


仁王立ちのように腕を組んで見下ろす彼。

私からは陰になって顔は見えないけど、何となく表情は分かる。

言葉でやり取りをして、やんわりと交わしたいことも。


私はどうしたらいいの?

これ以上、意地を張っても無駄なことも分かってる。

でも、一度出した技は取り消せない。

そんなこと、分かり切っているのに。


最終手段に出たとしても、結果(勝利)が出るとは決まって無いのに。

何を根拠に思い通りに進むと思ったんだろう、私は。

焦らなくたって、いつかは夫婦になる運命なら、

時に身を委ねるのが正解なのだろう。

衝動的に行動してしまったけれど、

今となっては取り返しのつかないことをしてしまったようで、胸が苦しい。

息苦しくなると同時に腹圧がかかり、下腹部が痛む。

歪めた顔を見せたくなくて、顔が隠れるほどすっぽりと掛布団を被り身を縮めた。


< 368 / 456 >

この作品をシェア

pagetop