オレ様専務を24時間 護衛する Ⅱ


15時過ぎに京夜様が帰宅した。

その表情は明らかに暗くて、掛ける言葉が見つからない。

ううん、違う。

京夜様は、私から気休めの言葉が欲しいだなんて思ってない。

むしろ、いつも通りに振舞って貰いたいと思うはず。

私は彼からジャケットを受け取り、ルームシューズを足下にそっと置く。

そうよ、私だって同じだもの。

病院でのやり取りを話したとしても、いつも通りにして欲しい。

やっぱり不自然な振る舞いは、返って傷つくから。


「シャワー浴びて来る」

「はい」

「夕飯作ったか?」

「いえ、まだですけど」

「じゃあ、作らなくていい。サッパリしたものを食べに行こう」

「………はい」


京夜様は自室へと向かいながらネクタイを解き、

器用に片手でYシャツのボタンを外し始めた。

そんな彼の後を追い、彼がバスルームへと消えたのを確認すると、安堵の溜息が漏れ出した。

本当は夕食の準備をほぼ終えている。

真夏日ということもあり、きっとサッパリしたものが食べたいと言うと思って。

だけど、そんなことはどうでもよかった。

彼の前で、いつも通りの自分でいられるか。

それだけが心配だった。

少し明るめのグロスのおかげかもしれない。

彼に悟られずに済んだ。

ジャケットを片付けながら、気を引き締め直す。

今はまだ………。


*********

「久しぶりだったからか、何だか新鮮な感じでした」

「………だな」


1ヵ月ぶりに風月を訪れた。

事前に京夜様が注文して下さっていたようで、

私達が着くなり、涼しげな夏の料理がテーブルを彩った。

しかも、私の体調や好みを考えて下さったようだ。

私の好物の豆腐料理がいつもより多かったように思う。

倖せを噛みしめながら、彼が運転する車の助手席に座ると。


「少し走らせてもいいか?」

「はい、喜んで」

「悪いな」

「何故、謝るのですか?」

「何となく」


京夜様が憂さ晴らしがしたいのだと理解した私はシートベルトをして、笑顔を向ける。


「日も沈みましたし、夜景を観がてら、海風に当たりに行きましょう!……法定速度内で」

「フッ、分かってるって」


私達を乗せた超高級スポーツカーは、首都高湾岸線へと走り出した。


< 376 / 456 >

この作品をシェア

pagetop