オレ様専務を24時間 護衛する Ⅱ


暫くの間、自分の世界に閉じこもる。

何度も何度も気持ちの整理を図り、『後悔』の二文字を打ち消した。


すっかり冷え切ったカフェラテを口にすると、搭乗開始を告げるアナウンスが流れた。

それが合図かのように気持ちを切り替え、立ち上がる。

ゆっくりと頭に掛けられたものを取ると、


「あれ?」


隣の椅子に腰掛けたはずの人がいない。

どうしよう………これ。

頭に掛けられていたのは、手触りのいいストールだった。

涼しげな空色がグラデーションになっていて、

夏でもサッと首元をお洒落に演出できるもののようだ。

確か………、男性だったよね?

布地の隙間からこれの持ち主の足元が一瞬見えたのだ。

涙で視界が歪んでいたが、確かに男性用のトレッキングブーツだった気がする。

夏の登山で紫外線対策や寒さ対策で使うものなんじゃないかしら?

慌てて周りを見回した。

けれど、次々と搭乗口のゲートをくぐる人ばかりで、誰が持ち主なのか分からない。

申し訳ない思いが込み上げてくる。

仕方なく、空港職員に託そうと手荷物を持ち上げた、その時。

1枚の紙がはらりと足元に落ちた。


『Hand-woven products from the Bengal region of India.
 It seems to have been woven to meet you………』

(インドベンガル地方の手織りの品です。貴女に出会う為に織られたもののようだ……)


見ず知らずの人にプレゼントするのに、

こんなにも心のこもった言葉があるだろうか。

とても丁寧で綺麗な筆跡から推測出来る。

このメモを書いた人がとても思いやりがあり、誠実であるという事が。

再び搭乗を促すアナウンスが流れた。

ストールを大事にバッグにしまい、搭乗口へと向かった。



















飛行時間1時間30分。

再び地上に降り立った所は、全く土地勘の無い場所。

乗り継ぎの空港だったミュンヘンは学生時代に何度か訪れたことがあったが、

ここは本当に初めて訪れる国……。

周りを行き交う人の会話も空港内のアナウンスも

英語以外は全く分からないほど、心細さが押し寄せて来た。

緊張した面持ちで入国審査も済ませ、預け荷物を受け取り、

無事到着口のドアをくぐると、


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