オレ様専務を24時間 護衛する Ⅱ


「キィワァ~~ッ!!」


一際甲高い声が耳に届いた。

声のした方に視線を向けると、

ブロンドの髪をふんわりとシニオンにした女性が満面の笑みで手を振っている。


「エイミー……」


彼女は高校生の時にホームステイで我が家に来た Amy Reintjes (エイミー・レインチェス)。

屈託のない笑顔が印象的で、何事にも一生懸命な彼女は朱夏の次に心を許せる親友だ。

欧州での国際大会の時は、必ず応援に来てくれていた。


ホームステイで知り合っても殆どが数年で音信不通になるというが、

彼女は日本人以上に日本人らしくとても律儀で、

引っ越す度に新居の場所を必ず知らせて来るのだ。

自分が御影との関係を一切話してないのが心苦しくて、

本当は彼女に連絡するのを何度も躊躇した。

だが、毎日優しく接してくれる京夜様の顔を見るのが本当に辛くて。

選択を迫られている状況からどうしても逃げ出したくて……。


そんな時、一通のメールが届いた。

『会わせたい人がいるから、欧州に来る時があったら、必ず連絡してね』と。

気が付いたら、エイミーへ返信していた。

『暫く日本を離れたい』と。

朱夏にも、母親でさえ弱音を吐けずにいたのに……。

彼女は理由を聞かず、いつでも来ていいと返信して来たのだ。

それを見た私は、他には何も考えられず、あのマンションを飛び出した。


安易に飛び出してはいけないことも。

よくよく考えて決断したはずの日常を放棄して。

何より一番に想ってくれている人に背を向け、

もう二度と戻れないかもしれないあの場所を………。


後悔………するかもしれない。

涙に明け暮れるかもしれない。

眠れぬ夜を過ごすだろう。

あの人が恋しくて、胸が切なく苦しくなるのは覚悟の上。


それでも、体が、心が、

暫しの間、何も考えず過ごせる場所を求めていた。


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