壁に、おひさま
「ひゃっ、あぁぁ」

 彼が出て行くの同時に、私は変なうめき声をあげてしまった。
 腰が抜けたみたいに、壁伝たいにズルズルと座り込んでしまう。

 ななななんだか、とても大変なことが起こってますっっ。

 なになになに、どうしようどうしよう。鈍い頭は同じ言葉を繰り返すだけで、まともに働かない。
 真一くんが戻ってきても、どんな顔したらいいのか分からない。なにを話せばいいのか分からない。
 年上のお姉さんらしくするには、なにを言えばいいの?

 あああ、『お姉さんらしく』なんて考える時点でもうダメダメだーっ。

「……逃げたい」

 小声で呟けば、それが一番いいような気がしてきた。うん、とりあえず逃げよう。
 では、と立ち上がろうとしたけど腰が上がらない。仕方なく、絵具の散ったブルーシートの上を這い進む。
 なんだかものすごく間抜けな恰好のような気がするけど、仕方ない。

 ……あ。
 そういえば、真一くんはどんな絵を描きたかったんだろうか。ふと気になり、振り返る。

 目に入ったのは、圧倒的な色彩の乱舞。


 なんて、綺麗なんだろう。


 橙色を中心とした明るく穏やかな暖色が、紙の上で縦横無尽に飛び散る。交わり、重なることで鮮やかな濃淡を見せる。
 偶然が創り出しているもののはずなのに、全て計算されているようにも思えてしまうのは半円に近い形をしているせいだろう。
 その、真ん中。私のいた所だけが、ぽっかりと白くなっている。

 真一くん。 これは、おひさまが昇ってくるところ?
 そうして、真ん中に――私の居場所。


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